ついに壁を破ったんだぜ

大盛貝塚

2024年05月18日 22:24

その日は、突然来た。



ランカーバス、51.5cm。
人生初の50アップだった。

僕の釣り歴はもはや30年ほどになるが、少し恥ずかしながら、50cmを超えるバスは釣ったことがなかった。
49cmまでなら何度かあったにも関わらず…。

バスブーム真っ只中も経験しバス釣りにどっぷりハマっていた、今でもさして変わらずハマり続けている僕にとって、50cmを超えるバスは、昔から変わらず憧れの的であった。

その壁は、不意に超えた。

この日は夜明けに目が覚めた。時計は4時台。
いつもならそのまま二度寝なのだけど、せっかくなので朝マヅメに川スモールでも、とベッドからノソノソ這い出す。

天気は曇り。ホームフィールドの多摩川中流は、やや濁った水だった。
ラージ狙いなら悪くないのだが、川スモールには、あまり良いとは言えないコンディション。
それでも朝一はマヅメ時の活性の高い魚を狙おうと、トップやミノーで探るも反応はない。
折しもGW最終日。さんざん叩かれたであろう多摩川の魚は甘くなかった。

仕方ないとスローに落とすべく、ワームをセットしようと思って、はたと気づく。
フックケースがない。

寝ぼけながら出たせいか、家に忘れてきてしまったようだ。これじゃワームが使えない…。
それでも諦め切れずタックルボックスをゴソゴソと探ったところ、幸い、川スモールでは出どころがあまり無い大きめのオフセットフックが袋で出てきた。
センコーやブラッシュホグ向けのストック用に買って、そのまま突っ込んでいたことを思い出す。

これに合うワームは…と探して、クラシカルなゲーリー4インチグラブを発見。テールをカットしてイモグラブに。
これもまた古い手法だ。

ポイントは、川の流れが二股に分かれ、再度ふたつの流れが交差する、ちょっとした深み。
それ自体は川スモールには悪くないが、ガレ場のようなハードストラクチャーが見当たらない。片手落ちのイマイチな印象。

それでも一応、とアップストリームに投げてドリフト。
流れが早いので、ダウンに投げると水の抵抗ですぐ浮き上がってしまう。
1投5分くらいかかるテンポの悪い釣りだが仕方ない。

ゆるゆると流して数投。
反応ないな、と思っていたが、ふと近くを見ると、ベイトを追っていたのか30cm程のバスがシュッと泳いで去っていった。
なるほど、魚はいるのか。

もうしばらくやってみよう、と次のキャストで、妙にふわっとした抵抗を感じる。
これはアタリか?
スイープにあわせるも、そのままルアーが寄ってくる。微妙だな。

だが、これで途切れかけていた集中力が戻る。

次のキャスト。
しばらく流したところで、同じような抵抗感。
今度は慎重に、ゆっくり糸を張って聴いてみる。
重みがある。そして、僅かに竿先が持っていかれた。

確信。
これも、スイープにフッキング。
ロッドに重みが乗り、動き出す。乗った。

ロッドが大きく曲がる。
重い。その重みが、ボトムを這うように走り出す。
ただ、飛び跳ねる気配はない。本当にバスか?
疑い出した瞬間に魚体が見えた。
…デカい!

この辺りで既に確信はあった。これは自己記録だろうと。
魚自体はアフタースポーンだったのかもしれない。重くて走るが、秋の魚のような暴力的なまでの暴れ方ではない。

それでも数分はファイトしていたと思う。
とはいえ、こういう瞬間の自分の時間感覚ほど不確かなものはない。
夢中になったひとときは、長くも、一瞬にでも感じる。

寄ってきた魚の口を見る。
送り込ませた時間が永かったせいか、若干呑まれ気味で、ラインが歯に当たっている。
これ以上、時間をかけるのは危険だ。
最後はやや強引にランディング。幸い、大きく暴れることはなくアゴを掴めた。



こんな噛み合わない日が、人生初のランカーバスが釣れる日になるなんて想像もしていなかった。
幸運にも、たまたまその日にできた事が結果に繋がっただけ。
しかし、壁を乗り越える時なんてこんなもの…なのかもしれない。

歴史上、世界中では星の数ほど釣られたであろう50cm少々のランカーバスを釣ったところで、何のランクにも入らないことは重々承知している。
大きな魚を1匹釣って、それで僕の釣り欲が燃え尽きるわけでもなく。
気持ちも記録も、何ら変わることはないけれど。

たけど、この日は一生忘れないだろう。

上手くいかない日だって、捨てたもんじゃないかもしれない。

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